ジャンルと選択体系機能言語学

スー・フード

シドニー工科大学 言語研究グループ 准教授

日本語訳: 稲子あゆみ(神戸市外国語大学)
校正協力: 金曽祐哉(東洋学園大学)

ジャンルの概念は、近年教育言語学の分野でとくに目立って使われるようになってきています。専門性による違い、教室内のディスコース(談話)、タスク・教育・学習様式の分析や記述において、カリキュラム・プログラムのデザインおよび評価のための組織化原理として、また教授法デザインの基盤として、重要な役割を果たしています。ジャンルは、通俗的な用語でもあります。しかしながら、Yunick (1997, p. 321)は「こうした用語の通俗化があるからこそ、研究の継続、批判的倫理的評価、理論との対話の継続が必要となってくる」と論じています。ここでは、Yunickが提示する課題の一側面を取り上げながら、選択体系機能言語学(SFL)理論において、あるいはより広く選択体系機能記号論(SFS)理論においてジャンルという用語が何を意味するかについて探求することにします。理論的基盤を理解することは、異なる理論間で分析方法に違いが生じている部分はどこか、あるいはなぜ生じるのかを評価する上で重要です。そこで、他の理論との共通点だけではなく、SFLのジャンル研究アプローチが持つ独自の特徴、特に、ジャンルの特定と分析やジャンルと言語の関係、ジャンル分析におけるコンテクストの問題に関する特徴を挙げていきます。

その上で、ジャンルという用語が、ある理論のコンテクストあるいは別の理論のコンテクストで使われるとき何か別の意味を持つこということが問題となるのかどうか、という問いに向き合います。恐らく当然の帰結と言えるでしょうが、この問いに対する答えもまた、理論によってさまざまです。理論によって正当性に関する基盤が異なるからです。ここでは、SFLにおいて説明力の鍵となる問題に焦点を当て、アカデミック・リテラシーの分野に関して、SFLがテクストの言語において具現される意味に注目することで得られるものは何か、これらの意味がテクストのジャンルについて明らかにするものは何かを探求していきます。

SFLにおけるジャンル

Martin (近刊)によると、「SFLによるジャンル研究の主な先駆となったのは、Malinowski (Firth 1957/1968)の影響を受けたFirthのコンテクスト理論、およびMitchellが自身の論文で示したリビアの市場で物を売り買いするやりとりに関するFirth理論の例証である」ということです。70年代および80年代初頭のシドニー大学におけるジャンルの初期研究では、話し言葉に関心が向けられており、接客 のやりとり(Ventola, 1987)や読み聞かせ(Plum, 1988)の研究があります。以来三十年以上にわたり、この理論構成概念は、多様なディスコース(法律・メディア・学術・職業・文芸・教育・家庭)の研究にわたって、英語やその他多くの言語で、話し言葉・書き言葉・およびボディランゲージ・画像・音楽・空間デザインを含めたマルチモーダル(複数の伝達様式から成る)インターアクションの研究に応用されてきました。研究対象となるテクストは、ツイッターのような小さなものから教科書・博物館の展覧会や少年犯罪者のための司法会合のような大規模なものまでさまざまです(例えばChristie & Martin, 1997、Martin & Rose, 2008、 Bednarek & Martin, 2010、Dreyfus, Hood & Stenglin, 2010)。中でも重要かつ継続的に行われている応用分野が教育分野であり、初等・中等学校教育から成人・高等教育までが含まれます(例えばChristie & Martin, 1997、Unsworth, 2000、Feez, 2000、Martin, 2009, 2013、 Martin & Rose, 2008、Rose & Martin, 2012)。

Hyonが1996年に出した論文でディスコース研究分野全般における「三つの伝統」(新レトリック・特定の目的のための英語すなわちESP・およびSFLすなわちシドニー学派)について言及して以来、ジャンル研究にどのような違いがあるかという問題は、異なる「伝統」に属する学者によって繰り返し再検討されてきました(最近の貢献には、例えばChristie, 2008、Bawarshi & Reiff, 2010、Tardy, 2011、Flowerdew, 2012、Martin, 近刊がある)。SFLにおけるジャンル研究の研究範囲は、社会における研究対象の観点でこれらのジャンル理論ともかなりの共通点を示しています。確かに、ESPおよび新レトリック のジャンル研究との間では、学術および職業上のインターアクションの分野に関心を持っているという点が共通していますし、コンテクストの概念に対する関心も共通で、新レトリックとは言語以外の意味の様式にも注目することの重要性の認識という点でも共通しています。では、SFLのジャンルの構成概念と他の分析アプローチを区別する特徴は何でしょうか。

定義の検討が必ずしも直ちに役立つわけではありません。SFLでは、ジャンルは「当該文化の社会実践を発動する(...) の(...)意味のコンフィギュレーション(配列)の繰り返し」(Martin & Rose, 2008, p.6)と定義されています。ESPのジャンル研究では、ジャンルの定義方法は表面上SFLと根本的に異なるわけではなさそうです。従って、SFLにおいてジャンルという構成概念が 位置づけられる理論のほうをもっと見ていく必要があります。結局のところ、ジャンルは、理論的構成概念であるので、それ自体が独立して存在するのではなく、理論の中で他の構成概念との関係において定義されることになります。図1は、ジャンルを言語とコンテクストの社会記号理論全体における一側面として 表示しています。この図は、言語を三つの層からなるものとしてモデル化しています。すなわち、音および/または視覚記号からなる表現の次元(音韻論・文字論)、節レベルの語彙文法のシステムの層、そしてテクストレベルのディスコース(談話)意味層です。これらの層は、図1では内側の三つの接点を共有する円として表示されています。意味はそれぞれの層で作られ、意味には(観念構成・対人・テクスト形成の)メタ機能があります。

Modelling language in context [adapted from Martin & White (2005)]

図1: コンテクストにおける言語のモデル化[Martin & White (2005)から適用]

図1ではまた、コンテクストを層を成すもの(外側にある二つの円)として表示しています。まずはレジスター (言語使用域)(すなわちフィールド(活動領域)・テナー(役割関係)・モード(伝達様式)の変動要素として抽象化されたコンテクスト)があり、その上により抽象度の高いレベルとしてジャンルがあります。さらに、SFLではジャンルは文化を構成する社会過程のシステムを表示します。この観点から見れば、ジャンルのシステムは、言語(およびその他の社会記号)における選択のパターンとして具現されるレジスター変動要素のコンフィギュレーションとして 具現されます。抽象化されたコンテクストとしてのジャンルがテクストにおいて具現されるのです。しかしながら、テクストにおける言語の選択パターンもまた、さまざまなレジスターやジャンルを構築する機能を持っているため、言語とコンテクストの関係は双方向的なものになります。別の言葉で言えば、Martinの定義にあるように、「意味のコンフィギュレーションが・・・社会的過程を発動する」のです。このような形でジャンルを定義することによって非常に重要な意義がいくつか出てきます。

ジャンルとレジスターの区別

まず、テクストがコンテクストによってどのように形成されるか、あるいはテクストがどのようにコンテクストを形成するか、を説明する際に役割を果たすのは、ジャンルだけではありません。レジスターとジャンルという階層的なコンテクストのモデルは、テクストの機能を研究する中でより強力な説明力を発揮します。例えば、テクストはさまざまな種類のジャンルを表示するだけでなく、インターアクションのモードも具現します。この部分にこそ、理論によってテクストをジャンルとして規定するやり方が異なる理由があります。ESPや新レトリックのジャンル研究では、ジャンルの指す意味が、モードに起因するテクスト形成の方法と、ジャンルとして意味が配列される方法の間の違いを区別していないことがあります。従って、例えば、あるテクストの記述としてエッセイ、Eメール、ブログ、インタビューなどのジャンルが出てきます。しかしながら、SFLではこれらはさまざまなジャンルを具現しうるインターアクションのモードということになります。これらのテクストはジャンルとしては、exposition(論証)ジャンルやdescriptive account(記述的な因果的説明)ジャンル、explanation(説明)ジャンル、あるいはさまざまな種類のストーリージャンルを「発動」する可能性があります。テクストは、モードを具現すると同時にジャンルを具現するのであり、ディスコース分析においてはこれら二つのコンテクストの次元が区別されます。加えて、SFL分析を行うことによって、より長いテクスト、例えば小説や教科書や講義や研究論文はほとんどの場合異なるジャンルの連鎖を成しており、ジャンル複合体またはマクロジャンルと呼ばれるものを形成していることがわかります。 この観点から見れば、こうした異なる構成要素をジャンルという単一の概念でひとくくりにしてしまうことで、重要な通時的変遷が見落とされたり説明できなくなることになりかねません。

ジャンルの日常的意味と専門的意味

第二に、SFLにおいてジャンルを語る際には、言語学において理論化された概念について語っているのであって、それは日常生活でテクストについて話したり記述したりするやり方と同じかもしれないけれど異なる可能性もあり、実際には同じでない可能性が高いのです。

もしだれかに、自分が話したり書いたりしているテクストの種類を記述したり理論化したり、その名前をいったりその目的を言ってみてくださいと頼んだ場合、返ってくる答えは必然的に、その人がそのときに話したいことであったり、こうした質問への返答として自分自身のディスコースや言語について内省するために使えるリソースの種類であったりと、あらゆる要因によって制約されます。このような手段によって得られたジャンルの名前や記述は、必然的に境界線のゆるい構成概念となり、複数のディスコース分析で一貫性を持った経験的相関のあるものとして応用することができません。ある特定の言語使用者が自分の言語使用について言葉にして述べるための道具や意識のタイプを調べる目的であれば、妥当性を持つかもしれません。しかしながら、ここで大事なポイントとなるのは、我々の疑問や観察自体が、みやすい意味作りの形式として単純に解釈することのできない新たなディスコースを作り出していくということです。

テクストを直感的に読むことや、実践分野の参加者に言及することは、出発点にはなるものの、社会記号論としての言語研究においてはジャンルの特定や区別の合理的な基盤にはなりません。SFLにおけるジャンルの特定とは、常識に基づく分析の過程ではなく、意味の理論において、意味自体が常識とは異なる概念として規定される理解の理論的前提に基づく分析過程なのです。言語を社会記号のシステムとして理論化することは、あらゆる種類の形式対機能の二元論を拒絶することでもあります。その代わりに、意味は選択肢のシステムネットワークとして、これらの選択肢の間の関係の中に存在するものとして表示されます。別の言葉で言えば、意味というものは、言えた/書けたかもしれないけれど言わなかった/書かなかったこととの関係で、言った/書いたこと、の中に作られていくのです。このような観点があれば、我々がテクストにおいて作り出す意味、あるいはテクストが我々にとって持つ 意味の複雑さを単純に意識の俎上に載せることができるといった思い込みを排除できます。社会記号論(意味作りの理論)であるSFLの営みは、テクストの持つ意味の潜在性を説明することであり、その中に、テクストがある文化のジャンルを発動する潜在性も含まれているのです。

理論的構成概念の持つ、日常用語と異なる意味に関するここでの議論の締めくくりとして、コンテクストそのものに関して一言述べておきます。もし、コンテクストがディスコースの意味を明らかにするものとして解釈されるならば、コンテクストそのものも記号のインターアクションの構成要素となっています。すなわち、ディスコースのコンテクストとは新たな(マルチモダリティを含む)ディスコースであり、活動を観察することであれ、他の資料を読むことであれ、実践分野の参加者にインタビューすることであれ、「テクストを超えた」世界を探究するということは、さらなるテクストを探究するという意味になります。SFLでは、コンテクストは言語およびその他の記号様式の中で、またそれらによって具現される抽象的な意味の領域として理論化されています。テクストを超えた探究を行うとき、私たちは、ジャンル・フィールド・テナー・モードについて、また新たな意味作りを探究しているのです。

ジャンルのシステムネットワーク

SFLのジャンル研究が他と異なる特徴の三つ目は、ジャンルのシステムネットワーク、すなわち、ジャンル同士の共通点は何か、違いは何かということを識別するためのシステムを提供する潜在性があるということです。ジャンルのシステムネットワークの考え方の具体例が図2で、これはMartin and Rose (2008)[1]から引用したストーリージャンルのシステムネットワークの一部です。ストーリージャンルは、総じて「現実または想像上の出来事を再構築し、参与する対話者の間の連帯の絆を発動する形でその出来事を評価する」(Martin & Rose 2008 p.97)ジャンルとされています。しかしながら、ストーリーのタイプは出来事の語られ方および評価のされ方によって区別され、その過程で連帯感のための基盤も変化します。システムの中の選択肢は、観念構成と対人の両方の意味のコンフィギュレーションにおける差異を体系的に表示するのです。

A system of time-ordered story genres (from Martin and Rose, 2008, p.81)

図2. 時間軸に沿ったストーリージャンルのシステムネットワーク(Martin & Rose, 2008, p. 81より)

図2を左から右へと読んだときに最初にジャンルとして区別されるのは、期待通りに途絶なく展開していくrecount(経時的な再話)ジャンルと呼ばれるものと、予想外であったり平凡な日常からの途絶があるストーリーです。後者の場合、ストーリーの途絶に対する解決が提供されていればnarrative(物語)ジャンルとなります。それに対して、 途絶が未解決の場合には、語られた出来事に対する評価的対応でストーリーを締めくくることがあります。評価的対応の性質によって、感想であればanecdote(逸話)ジャンルを具現するもの、批判的解釈であればexemplum(教訓話)ジャンルを具現するもの、コメントであればobservation(観察話)ジャンルとなります。従って、anecdoteジャンル、exemplumジャンル、およびobservationジャンルは「ストーリーの『ポイント』によって区別されます。anecdoteジャンルの『ポイント』は感想を共有すること、exemplumジャンルの『ポイント』は倫理的批判を共有すること、observationジャンルの『ポイント』は物事や出来事に対する個人的な対応を共有すること」(Jordens, 2002, p.68)になります。

ジャンルのシステムの進化をネットワークとして表示することで、異なる文化の探究や、文化におけるジャンルの進化に道を開くことができます。これらは、言語と文化のダイナミックな性質を表現することができます。そしてこれは、図1で特定したさまざまな層にわたる双方向の具現化の関係を示す理論の中に、前提として含まれているのです(例えばMartin & Rose 2008)。

ディスコースにおけるジャンルの分析

このようにSFLにおいてジャンルが何を意味するかを説明した上で、ここからはディスコースで発動されるジャンルの分析に注意を向けます。その過程は、観念構成・対人・テキスト形成のパターンからなるテクストの意味に分析上の関心を向けることから始まります。ジャンルは、複数の意味のステージが展開されることによって発動されていき、これらのステージによってジャンルの種類が区別されます。この理由から、分析者は展開されるテクストにおいて意味がどのように移り変わるかに注意を払います。多様な種類のテクストに関する分析や議論における詳細や説明や具体例については、Martin & Rose 2008 Genre relations: Mapping cultureを参照してください。ここでは、科学分野の研究論文の序論の最初の部分から具体例のテクストを一つ取り上げ、ジャンル分析の簡単な説明を行います。

Hood (2010)は、異なる学問分野における研究論文の序論に関する研究において、この部分は研究の正当性の根拠を示す機能を果たすマクロジャンル(ジャンルの複合体)を構成し、この根拠を確立するために様々なジャンルを取り入れる可能性があると論じています。従って、研究根拠自体が、論文全体を構成するより長さのあるジャンル複合体の一部として位置づけられることになります。研究根拠の具現化として典型的なものの一つに、report(報告)ジャンルおよびdescription(記述)ジャンルの繰り返しがあります。下の例は、生化学分野の論文からとった比較的短い例(Federova et al. 2006)です。この序論は、研究対象、ここでは「触媒によって変質するタンパク質」という一般的な分野に関するreportジャンルから始まります。最初のステージであるClassification(分類)ステージが現象である「触媒によって変質するタンパク質」に関する全般的なカテゴリーを特定し、次にテクストの残りを構成するDescription(記述)ステージ(この場合は機能)が続きます。続いて、二つ目のreportは、Classificationステージ(先行研究)と、一連のDescriptionステージ(それらの貢献、違い、結果)によって、研究対象に関係する既存の研究の全体像を構築します。この次に、筆者が自分自身の具体的な研究を表示するdescriptionジャンルが続きます。ここでは、Phenomenon(現象)ステージ(新たなアプローチ)と次にDescription ステージ(方法)があります。

研究対象(「触媒によって変質するタンパク質」)に関するDescriptive report(記述的報告)ジャンル

触媒によって改質するタンパク質は、固定化酵素の活性中心から多様なバイオセンサーの電極表面への電子移動の効率性を増加するための道具の一つである。(Federova他2006)

他の研究(欠点と限界)に関するDescriptive report(記述的報告)ジャンル

先行研究は、タンパク質に酸化還元メディエータを共有結合させることで酵素の補欠分子族から電極への直接の電子移動が可能になることを示した[1]。現在、こうした改質酵素を得るための方法は多くあるが、そこでは酸化還元メディエータは酵素分子の表面化あるいは補欠分子族そのものに共有結合する[2]。酸化還元メディエータとタンパク質の機能グループを共有結合させるアプローチの主な欠点は、結合部位の数が限られていることと、改質に伴ってタンパク質の生理化学的特質が変わることである(Federova他 2006)。

自身の研究(方法)のDescription(記述)ジャンル

従って、新たなアプローチが提案された。すなわち、金属(例えばRuやOs)合成物を使ったタンパク質の配位改質である。金属化合物とタンパク質ヒスチジン残基の配位は、水溶液中で起こり、生成物質が簡単に単離されることから、触媒による酵素改質の最も有望な方法である。(Federova他, 2006)

上記のジャンル複合体の中で個別のジャンルを区別する際に重要となるのが、下線を付したtheme(主題)要素であり、ここがテクスト形成上フィールドの大きな転換を際立たせています。それに加えて、フィールドのステータスに関しても一般的か特定的かという違いがあり、report ジャンルとdescriptionジャンルを区別しています。ディスコースの中では最小限度 attitude(態度評価)も表現されていますが、 polarity(肯否極性)に関しては、研究対象に関する肯定的な表示(効率性)から他の研究に関する否定的な表示(欠点)へと移行し、さらに筆者の貢献で肯定的な評価(有望、簡単に)に戻ります(評価の分析に関する詳細はMartin & White, 2005、Hood & Martin 2007、 Hood, 2010を参照のこと)。それぞれの下位ジャンルが、関連するフィールドの各側面の表示を、事実に基づきながらも評価表示(太字)も含めた形で構築しており、それが合わさることでreport + report + descriptionというマクロジャンルを構成しています。

評価的reportジャンルおよびdescriptionジャンルは、多くの学術分野の研究根拠で非常に良く見られます。これらを用いることで、学術文献の著者は世界を客観的に表示すると同時に、批判的で説得力のある観点を提供することができるのです。しかしながら、研究根拠のマクロジャンルとしてのステータスを評価することで、自身の研究を正当化するために他のジャンルを取り入れる可能性も出てきます。潜在的可能性はあってもほとんど具現されまない選択肢もあれば、特定の知的分野でより多く見ることのできるジャンルもあります。

このタイプのディスコースが内在的に評価的な機能を持つことを考えると、argument(論拠)ジャンルが出てくることが予想されるかもしれません。また、時として我々は、研究論文の序論は筆者が自信の研究の値打ちを論じる場所であると定義するかもしれません。一連のarguments(論拠)を辿ってthesisを繰り返すまでの過程を辿る序論が出てくることは非常に稀です。研究根拠をargumentジャンル、あるいは一連の論拠として構成していくという選択は、ほとんどの分野においてあからさまに独断的すぎると解釈される可能性があり、ジャンルとしても、筆者の主観的な立ち位置を強調する結果となってしまいます。

研究根拠のジャンル構成としてあり得るもう一つの形はストーリージャンルであるobservation(観察話)ジャンルです。研究根拠の構築にストーリージャンルを適用することは、人文科学ではまれではありませんが、社会科学ではあまり一般的には見られず、科学の分野では極めて稀な選択になるでしょう。科学におけるreportジャンルでは一般性や批評における客観性を前面に押し出すのに対し、ストーリージャンルでは共有する価値観の象徴としての主観的な実例が優先されます(学術論文のコンテクストにおけるこのジャンルのより詳細な議論についてはHood, 2010、Hood近刊を参照のこと)。.

これらの短い実例を使って示そうとしたのは、テクストで具現される言語が、世界を文化的に形成する意味の展開パターンのバリエーションについて何を語るかについて、SFLを使った詳細な分析によって得られる知見は何か、ということです。この観点から見ると、言語の分析とは既にできあがったテクストを記述する過程ではなく、ジャンルの特定やそれらが互いにどの程度関連し合っているかを理解するための鍵である、ということになります。コンテクストとは、ディスコースの中にも外にも、そして他のディスコースの中にも存在するのです。

上で議論したテクストの例は教育的フィールドの一つ、すなわち学術英語研究に関する分野ですが、SFLのジャンル研究は幼児教育以降のあらゆる教育部門にわたって影響を及ぼし続けています。可視性とはカリキュラムの知識を構築するジャンルにおける成功への期待という意味であり、介入とは、教育成果の優劣という階層化に社会的影響を及ぼし続けている教育実践の現状を覆し、教育上の知識にアクセスする上での社会的平等の増大に利する教育実践へとデザインし直していくことを意味します。

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